列車の早発は衝突事故を引き起こすのか?

2021年4月8日、京浜急行電鉄は金沢八景駅で、上り普通電車が定刻より約2分早く発車する事案があったと発表した。

この事案に関連して、「衝突事故を引き起こす可能性があった」という声がTwitter等でいくつか上がっていたが、果たして本当にそうなのだろうか?

 


 

早発は法令違反

列車の早発を禁じるものとして、鉄道営業法(明治33年法律第65号)の下位法令である鉄道運輸規程(昭和17年鉄道省令第3号)があります。

鉄道運輸規程第22条第1項には、

鉄道ハ時刻表ニ指示シタル列車ヲ其ノ時刻前ニ出発セシムルコトヲ得ズ
(鉄道は時刻表に示す列車を、その時刻よりも前に発車させてはならない)

と書かれており、このことから列車の早発は法令違反となります。

 

早発すると何が起こりえるか

では列車が早発すると何が起こると考えられるか。

  1. 乗客が列車に乗れない。
  2. 列車間隔が詰まり駅間停車が発生する。
  3. 作業員の退避遅れ。

 

1. は当然である。乗客は列車の発車時刻に間に合うように来るのだから、所定の時刻よりも早く出発してしまえば乗客は乗ることが出来ない。

2. は路線にもよるが、列車の発車間隔を一定にすることで駅間停車を防いでいる場合がある。これは駅間で止まってしまうと、停車中に何か事故や天災が発生した際に列車の位置まで駅員や作業員を派遣する必要が発生し、それまで乗務員も乗客も身動きが取れなくなってしまうからだ。また駅間で停車してしまうと、停止位置によっては踏切を長時間閉鎖してしまうので、周辺道路の渋滞を誘発する。

3. は上二つと比べて、人員に直接的な被害をもたらす可能性がある。保線作業員等は作業時に当日のダイヤグラムを携帯しており、列車見張り員はそのダイヤグラムを確認して作業員に退避を促す。列車が遅れている場合は、本来来るはずの列車が来ず退避している時間が伸びるだけなので、作業が遅れることはあっても事故にはつながらない(但し、列車そのものの時刻が変更されたことに気づかず保線作業に入ってしまったものとして、常磐線磯原 – 大津港間列車脱線事故がある)。これに対して列車が早発してしまった場合、列車見張り員がまだ来ないものだと思っているところに列車が来てしまうため、作業員の退避が遅れて触車事故につながりかねない。

以上のように、列車の早発は乗客への迷惑や作業員への危害へつながるものであるので、してはいけないこととなる。

 

早発≠衝突事故

では列車が早発したからと言って衝突事故は起こるのだろうか?

衝突事故を危惧するツイートとしては次のようなものがあった。

 

似たようなことは、2020年9月6日に発生した五能線早発事故の際にもみられた。

 

では、まず今回の状況について考えてみたいと思う。

記事冒頭に示した423氏のツイートを元にすれば、以下のようになる。

8時59分 普通811列車(品川行き)、金沢八景駅到着
9時1分 快特887SH(京成高砂行き)、金沢八景駅到着
9時2分 快特887SH、金沢八景駅発車
    (金沢八景駅上り副本線出発信号機開通)
9時3分 普通811列車、金沢八景駅発車(定刻-2分)

 

③と④の間で上り副本線出発信号機が開通しているが、これは正当な開通と言える。通常、出発信号機は列車が発車するよりも前に開通するものであり、この動作自体は特におかしいものではないと考えられる。一方で出発信号機の開通が早すぎたのは、京急が未だ各信号取扱駅で信号掛が連動制御盤のてこを操作して進路構成を行っており、信号掛が通常よりも早く信号てこを取り扱った可能性は否定できない。

 

では、例えば信号掛が信号てこ操作を誤り、通常快特887SH向けの上り本線出発信号機ではなく普通811列車向けの上り副本線出発信号機を開通させた場合、衝突事故は起こるのだろうか?それは無いと言える。

上り副本線の出発信号機を開通させた時点で、継電連動装置の作用によって上り副本線出発信号機と普通811列車が通過する分岐器は全て鎖錠され、また上り本線出発信号機を開通させることが出来なくなり、上り本線出発信号機は停止現示となったままになる。

仮に快特887SHが出発しようとしても、C-ATSによって停止させられる1ためやはり衝突事故は起きない。

そもそも今回の場合、列車の発車順序は間違えていないので金沢八景駅発車の場面で列車が衝突することはないし、駅間で追突事故が起きたのであれば、それは信号掛の問題と言うよりは運転士が途中の閉塞信号機を冒進したということになり、早発が主な原因とは言えなくなるだろう。

 

もし仮に衝突事故が発生するとしたら、上記せき氏が言った六甲事故のような場合だが、六甲事故と今回の事案を同列に語るのは無理があると言える。

六甲事故は、回送列車の運転士が時刻表及び信号機を見ずに列車を発車、ATSによって停止するもATS電源を無断切断、更に車掌の停止合図にもかかわらず運転を継続したため、通過中の特急列車と衝突したというものである。

この六甲事故は、①回送列車運転士が運転時刻表をまともに見ていなかった、②信号現示を確認しなかった、③ATSによって停止したにもかかわらずATS電源を無断で切った、④車掌の停止合図を無視して運転を継続した、と4つの大きなミスによって引き起こされた。

一方、今回の事案では、①は同じだが、②信号現示を確認して出発している、③進路は適切に開通しているのでそもそもATSは動作しない、④車掌も発車時刻と勘違いして戸閉操作をしているため列車を止めない、と状況が異なる。

但し、前述のように快特887SHと普通811列車の順序を逆にし、なおかつ快特887SH運転士が六甲事故と同様のことをしていれば、その二の舞になった可能性は否定できない。

 

早発は何故起きる?

ではなぜ五能線も京急も、連動装置があるのに列車の早発を防げなかったのか?

理由は簡単。そもそも連動装置は列車の早発を防ぐためのものではないからである。

 

連動装置というのは、信号機や分岐器が適切に制御されているかを確認し、もし誤った取扱いをしようとしてもそれを防ぐものだからだ。

上図の様な場合を考える。

例えば本線出発信号機を開通させたい場合、品川側の分岐器を直進方向に開通させていなければならない。もし分岐器が直進方向に開通していなければ、出発信号機を開通させない。

また、既に本線出発信号機が開通しているにもかかわらず、分岐器を分岐側に転換し副本線出発信号機を開通させようとしても、それをさせない。

このように、進路条件と信号機の開通条件が合致しているかどうか、合致していなければ動かさないようにするのが、連動装置の役割である。

連動装置の詳しい仕組みについては、鉄道文化映画集「鉄道信号」で詳しく解説されている。連動装置のみならず、閉塞や信号機についてもわかりやすく解説されているので、是非見て頂きたい。

 

もし列車の時刻に合わせて連動装置(CTC)を動かしたいのであれば、自動進路制御装置(PRC)を導入する必要がある。しかし京急は依然信号扱いを手動にしている。

また五能線は、特殊自動閉塞式(電子符号照査式)という特殊な閉塞方式に依るところもある。これは車載器を操作してCTCに進路構成を要求、進路構成に問題が無ければ分岐器を転換・信号機を開通させるもので、時刻前であっても車載器を操作してしまえば信号機を開通させることが可能なのである。

 

結局は「最後は人」

PRCを導入すれば信号掛が直接信号てこを操作する機会を減らすことは可能だが、最終的にはやはり人の手が鍵となる。いくらPRCを導入していようが出発時刻前に信号機は開通する2し、発車時刻を確認するのは運転士と車掌。時刻前に列車を動かしてしまえば結局は早発である。

本当に早発を無くしたいのなら、いよいよ全く人の操作の要らないATOを導入しなければならないだろう。しかし今現在ATOを導入しているのはその殆どが地下鉄や新交通システムで、地方線区への導入にはまだ越えねばならない壁がある。

故に、誰かが見てくれているからと気を抜かず、常に確認を怠らないよう気をつけねばならないのだ。

脚注

  1. 所定通り金沢八景駅に停車したのであれば、加速しても普通811列車の進路を支障する程出発信号機を冒進できないだろうし、誤通過しようとしても出発信号機が停止現示のため、C-ATSの作用によって減速・停止させられる。
  2. 基本的に出発反応灯等を確認して操作するため、信号機開通前に操作できない。

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