車警・ATS

2022年11月14日

国鉄・JR・私鉄の車内警報装置・自動列車停止装置



ATSの分類

  • 制御方式による分類
    • 打子式
    • 地上子式
      • 変周式(単変周・多変周)
        • 地上に設置された信号を発振する地上子と、車両に設置されたそれを受ける車上子、及び受けた信号を処理する車上装置で構成される
        • ATS-S形を例にする。ATS-S形では車上装置の共振周波数が130kHzに設定されている。信号機が停止現示以外の場合、地上子は信号を発振しない。車上子は常に105kHz信号を発振しており、車上装置内のフィルタ回路を通して警報動作用のリレーを扛上(つまり警報が動作しないように)している。信号が停止現示となると、地上子は130kHz信号を発振する。車上子が130kHz信号を受けると回路全体が130kHzとなり、フィルタ海路を通過できなくなって警報動作用リレーが落下(つまり警報が鳴動)する。元は共振周波数が1種類であったことから「単変周」と呼ばれていた。その後、ATSシステムの改修などにより複数の周波数を利用するようになると、共振周波数が複数となった「多変周」に変化した。
      • トランスポンダ式:デジタル情報送受信装置を地上子として、処理装置を車上装置として使用する。地上子から送信された情報を車上装置で処理する点が変周式と異なる。また、車上装置から車上子を介して地上子(地上装置)に情報を送信することも可能である。
    • 軌道回路式
  • 速度照査方式による分類
    • 点照査式(地上タイマー式・車上時素式)
    • 連続照査式
    • パターン照査式
    •  
  •  

 


 

打子式ATS

 日本では1927年の東京地下鉄道(現・東京メトロ銀座線)開業時に採用された、黎明期のATSである。

 線路脇に設置されたトリップアームを地上子として、車両に搭載されたトリップコックを車上子として、それぞれ使用する。信号機が2個連続して停止現示を行う1と、信号機脇のトリップアームが起立する。列車が信号を冒進すると起立したトリップアームがトリップコックに当たる。トリップコックはブレーキ管に接続されており、このコックが開かれることでブレーキ管の圧力が減少。非常ブレーキが動作して列車は2つ目の信号手前で停止する。

 また警戒信号時に速度照査を行うことも出来た。警戒信号継続時に、列車がある点を通過してから一定時間はトリップアームを起立させ、時間後にトリップアームを倒す。即ち、警戒信号に従い列車を減速させていれば、トリップアーム通過時には既にトリップアームは倒れていて非常ブレーキはかからない。逆に信号を無視し速度超過していた場合は、トリップアームは起立しており非常ブレーキが動作する。このように簡素かつ原始的ながら確実な速度照査を実現していた。

 物理的なシステムゆえに列車の増発や運行システムの複雑化に対応しにくく、WS-ATCやCS-ATCが登場するとそれに取って代わられた。名古屋市営地下鉄東山線が2004年にCS-ATCに移行したのを最後に、普通鉄道として打子式ATSを採用する路線は消滅した。

 


 

車内警報装置(車警)

A形車内警報装置

 1960年に、東海道本線・山陽本線(東京駅〜神戸駅〜姫路駅)で初めて導入された。

 軌道回路には常に1300Hzの搬送波が流れており、停止現示以外では20Hzの、停止現示では35Hzの信号電流が送信される。列車が停止信号の600m手前に進入すると、35Hz信号を受信する。この信号電流が車軸を通して車両の車上装置に流れ、ロング警報2が鳴動し、ATS表示灯が白色から赤色に変わる。また停止信号冒進や停電などにより信号電流を受信できなくなると、ロング警報とは別のブザーが鳴動し、ATS表示灯が赤色点滅する。

 

B形車内警報装置

 1954年に、東海道本線・東北本線(田町駅 – 東京駅 – 田端駅)で初めて導入された。

 B形では常に軌道回路に商用周波数(50Hz)の信号電流を流しておく。列車が警報点に到達したところで5秒間信号電流を遮断することで、ロング警報を鳴動させる。

 

C形車内警報装置

 1961年に、北陸本線・信越本線・羽越本線・奥羽本線(米原駅〜直江津駅〜新津駅〜新潟駅・新津駅〜秋田駅〜青森駅)で初めて導入された。

 A形・B形と異なるのは、警報信号が軌道回路からでは無く線路間に設置された「地上子」と呼ばれる信号発振器から送信される点である。これは、非自動閉塞区間では連動閉塞式を除き停車場間に連続した軌道回路が敷設されておらず、軌道回路を制御に用いるA形・B形は使用できないためである。

 信号機の手前600mにロング地上子と呼ばれる地上子が設置されている。信号機が警戒信号以上の場合、ロング地上子は105kHzで信号を発振しており、ロング警報は鳴動しない。信号機が停止現示になると、ロング地上子が有効になり発振周波数が130kHzとなる。この上を列車が通過すると、車両に搭載された「車上子」が130kHz信号を受信する。車上子は105kHzで共振しているが、ロング地上子を通過すると共振周波数が130kHzに引き上げられ、これにより車上装置が「停止信号接近」と判断し、ロング警報を鳴動させる。

 C形は停止信号接近に対する警報以外にも、速度超過に対する警報としても使用することが出来た。地上に列車検知用地上子もしくは検知用ループコイルとロング地上子を1対設置し、検知用地上子(コイル)通過後一定時間ロング地上子を有効にする。有効時間内に通過すれば速度を超過しているとしてロング警報が鳴動し、運転士に減速を促す。逆に有効期間外に通過すれば速度を超過していないとしてロング警報が鳴動しない。この方式は「地上タイマー式速度照査機能」と呼ばれる。この方式は以後のS形・Sx系・Ps形でも採用されている。

 

 いずれも、ロング警報鳴動後に「確認ボタン」を押すことで警報を停止させることが出来る。

 車内警報装置は、警報鳴動後に「運転士が列車を停止させる」ことを前提としていたため、仮に停止信号を冒進しても列車を強制的に停止させることは出来なかった。これを受け、国鉄は車警に非常制動タイマーを設置し「自動列車停止装置」に更新することを決めた。

形式 進行可能 停止信号
A形 20Hz電流 35Hz電流
B形 信号電流送信 信号電流一時停止
C形 105kHz発振 130kHz発振

 


 

ATS-A形(信号電流検知式)・ATS-B形(信号電流断検知式)・ATS-S形(変周地上子式・旧称 ATS-C形)

 いずれも前述の車内警報装置各形に非常制動タイマーを設置したものであるほかは車内警報装置とほぼ同一である。

 非常制動タイマーとは、ロング警報が鳴動した際に5秒以内に確認スイッチを押す動作(確認扱い)をしなかった場合、自動的に非常ブレーキを掛け列車を停止させるものである。これにより、例えば運転士が何らかの理由によりブレーキを掛けられず停止信号を冒進しようとしても、自動的に列車を停止させることが出来た。

 しかし、一度確認扱いをしてしまうとその後は列車を停止させることが出来なかった。これにより「米軍燃料輸送列車事故」が発生。以後、国鉄はS形設置区間では信号機直下3にロング地上子(直下地上子)を追設し、冒進時に警報が再鳴動するように改められた。B形については同位置にループコイルを設置することにより冒進警報を鳴動させることが出来たとも言われているが、詳細は不明である。

 また1968年の「御茶ノ水駅電車追突事故以後は、確認扱いの二段階化45警報持続装置を設置し、確認扱い後もチャイム6が鳴り運転士に注意を促すようにした。

日本国有鉄道の運転取扱基準規程(昭和39年12月通達第33号。最終改正昭和59年4月1日)及び運転保安設備基準規程(昭和40年3月通達第3号)によれば、各ATSの動作仕様は次の通りであった。

ATS-A形

停止信号を現示する信号機の内方に進入した場合 赤色灯点灯
停止信号を現示する信号機の外方一定の距離にある地上子を通過した場合
信号機直下にATS地上子を設置した場内信号機又は出発信号機
ロング警報鳴動、赤色灯点灯
停止信号を現示する信号機の内方に進入した場合 赤色灯点滅7

ATS-B形

停止信号を現示する信号機の外方一定の距離にある地点を通過した場合
停止信号を現示する信号機の内方に進入した場合
ロング警報鳴動、赤色灯点灯

ATS-S形(←ATS-C形)

停止信号を現示する信号機の外方一定の距離にある地点を通過した場合
停止信号を現示する場内信号機(ATS地上子を設けるものに限る。)又は出発信号機を通過した場合
ロング警報鳴動、赤色灯点灯

(ロング警報鳴動後の動作は上述の通りである。但し、運転取扱基準規程第365条では、使用停止中の閉塞信号機に対してはブレーキ取扱いにかかわらず確認ボタンを押してよいことになっている。)

 

 A形は1970年代にS形へ移行。B形はJR移行後にATC或いはATS-P系に移行。S形は同じくJR移行後に即時停止機能等を追加しATS-Sx系へ更新した。ATS-Sは導入当初はATS-C形と呼称され、後に改称されたとされている8

 車体表記は、A形が[A]9、B形が[B]、S形が[S]である。

 


 

ATS-Sx系

 JR移行直後の1989年に飯田線、阪和線で既存のATSの弱点を突いた事故が相次いで発生。JR東日本とJR東海がJR各社の委嘱を受け、ATS-S形を改良したのがATS-Sx系である。

 

ATS-SN形・ATS-SN形・旧ATS-SF形(以下、SN形と総称)

 SN形はJR北海道が、SN形はJR東日本が、旧SF形は初期のJR貨物がそれぞれ採用した形式である。従来のATS-S形に、「即時停止機能」(有効時123kHz)を追加したものである。

 これにより、即時停止地上子を信号機直下に設置することで信号を冒進しようとする列車を強制的に停止させることが出来るようになった。

 JR貨物の旧SF形は車上装置の型式としてのみ存在する。後に後述する車上時素式速度照査機能を追加した新SF形へ更新された。

 

ATS-ST形

 ST形はJR東海が採用した形式で、SN形の機能に「車上時素式速度照査機能」と「列車番号送出機能」を追加したものである。

 車上時素式速度照査機能は、2個1対の地上子(有効時108.5kHz)を0.5秒以内10に通過すると非常ブレーキが動作するものである。従来の地上タイマー式では地上設備の整備に莫大な費用がかかったが、車上時素式では地上設備は地上子を設置するのみで良いため費用はそれほどかからない。曲線や分岐器等の速度制限が固定の場所では常時発振型の、停止信号手前で速度照査を行う場合は信号機と連動するタイプのものを設置することで、速度照査を行える。

 列車番号送出機能は、駅付近の踏切において停車か通過かによりに遮断時間を適正化するものである。車上子から360±12kHzのMSK変調信号を送信し、これを地上子で受け取り地上装置で停車・通過の識別を行い、踏切警報時間を制御する。

 

ATS-SW形・SS形・SK形・新SF形・SN

 SW形はJR西日本が、SS形はJR九州が、SK形はJR九州が、新SF形はJR貨物が採用した形式である。いずれもST形から列車番号送出機能を省略したものである。

 SN形はJR東日本の車両のうち、JR東海管内に直通する車両に搭載されており、車上時素式速度照査機能を有する。

 SN形とそれ以外では車上子の常時発振周波数が異なる。SN形は105kHz、それ以外は103kHzと鳴っており、後者については車上時素式速度照査用108.5kHzを認識できるようになっている11。しかしロング警報と即時停止機能については完全に互換性がある。

 

 車体表記は、SN形が[S][N]、SN形が[SN](SNはNの上に丸点)、ST形が[ST]、SW形が[S]、SS形が[SS]、SK形が[SK]、SF形が[SF]である。

 旧国鉄・JRから分離された第三セクター線や、旧国鉄時代より直通運転が行われている私鉄線でも採用されている。伊豆急行線ではATS-Si形が整備されているが、名称が異なるのみでSN形と同一である。但し、地上装置に地上タイマー機能があり現示速度を遵守していればロング警報が鳴らない仕組みとなっている。

 JR東海と関係の深い愛知環状鉄道線、伊勢鉄道伊勢線、東海交通事業城北線、名古屋臨海高速鉄道あおなみ線ではST形が、JR西日本から検測車両などが入線する富山地方鉄道の鉄道線にはSW形が、JR貨物と関係の深い水島臨海鉄道には確認扱いを除いた新SF形と同等のATS-SM形がそれぞれ整備されている。

 

  ATS-S形 ATS-Sx系
SN形
SN
旧SF形
ST形 SW形・SS形
SK形・新SF形
車上子(発振周波数) 常時発振周波数 105 103
列車番号送出機能 360
地上子(共振周波数) ロング警報 130 130 or 129.3
即時停止機能 123
車上時素式速照 108.5
進行指示現示 103

 


 

旧ATS-P形(多変周点制御式ATS-P)

 1974年から関西本線で試験運用された形式。次のATS-P系と異なり、デジタル伝送ではなく多変周地上子によりパターンを発生させる。1988年開業の京葉線全線でATS-P形が採用されたのに合わせて運用が終了された。

 


 

ATS-P系(デジタル伝送パターン式)

ATS-P形(フルP・旧称 H-ATS、ATS-P’形)

 B形・S形ではATS確認扱いをしてしまうと非常制動タイマーが解除され、停止信号を冒進しても列車を止める手段が無かった。

 1984年に山陽本線・西明石駅で分岐器に速度超過のまま進入し脱線する事故が発生した。これを契機に位置基準車上演算式(パターン式)により信号冒進・速度超過の起こらないATSとして、H-ATSが開発された。1986年に西明石駅・大阪駅・京都駅・草津駅に地上装置が整備された。またEF66形16両に車上装置が整備され、S形と併用する形で使用が開始された。この時のH-ATSをATS-P’形とも呼ぶ。

 その後1988年に新規開業した京葉線にて全線整備され、名称もATS-P形とされた。JR東日本はその後緩やかにP形を整備していく予定であったが、京葉線でのP形本格運用開始わずか4日後、東中野駅列車追突事故が発生。これが発端となり、JR東日本は首都圏の過密線区でP形整備計画の前倒しを決定した。

 P形最大の特徴は、自車の減速性能、地上子から送られる曲線・勾配の情報を元に、停止点(減速点)までの刻々の上限速度を「車上演算方式」により求めて連続速度照査を行い、列車を信号機手前で確実に停止させることである。地上にはこれまでのATSで用いられた変周地上子ではなく、デジタル伝送地上子が設置されている。

 地上子からは、停止信号・曲線・分岐までの距離や途中の勾配の情報が送信12されている。車上子がこれを受信すると、車上装置に登録された車両の減速性能と自列車の現在位置を元に、停止点・減速完了点までの刻々の上限速度の曲線(減速曲線パターン))を演算する。このパターンを元に車上装置は連続して速度照査(パターン照査)を行う。パターンは常用最大ブレーキ用と非常ブレーキ用の2種類が作成され13、前者に抵触した場合は常用最大ブレーキで、後者では非常ブレーキにてそれぞれ停車する。このパターンは15km/hが下限となり、停止信号を冒進した場合は直下地上子にて強制的に停車する。パターンが発生していないときでも、車両最高速度に対する速度照査は常に行われている。

 停止信号に対する制御方法は次の通りである。

 停止信号の600m手前にパターン発生地上子が設置されており、ここから送信された情報を元に車上装置は停止信号までのパターンを作成・記憶する。列車がこのパターンに抵触しないように減速・停止すればP形は運転に介入しない。列車速度がパターンに接近すると、運転台に設置されたATS-P表示器の「パターン接近」が橙色に点灯し、同時に警報音14が鳴動する。更に列車が減速せずパターンに抵触した場合は、上述の通り常用最大ブレーキもしくは非常ブレーキで列車が強制的に停車する。この後、復帰扱いをすればブレーキが解除され、再び運転することが出来る。

 またパターン発生地上子から直下地上子までの間にはいくつか15更新用地上子が設置されている。パターン発生地上子通過後に信号現示がアップした場合はこの地上子を通過することによりパターンが消去される。

 またJR西日本方式の1形地上装置では、車上装置から送信16された次停車場の「停通判別情報」とP形搭載情報を受信し、踏切の定時間制御と現示アップ17が行えるトランスポンダ方式を採用している。JR東日本方式のⅠ形地上装置では採用されていない。

 曲線・分岐器では、減速完了点までの距離に加えて速度制限区間長の情報も送信されており、制限区間を通過すると自動的にパターンが消去される。また電磁直通空気ブレーキ車と電気指令式ブレーキ車では、パターン以下まで減速すると自動でブレーキが寛解する。

 信号関係の保安コード(電文)はJR各社及び相模鉄道(以下、相鉄)の協議により決定されることになっている。このため、P形を採用するJR各社・相鉄・東京臨海高速鉄道18・北越急行19・智頭急行20では互換性がある。但し各方式の間にも一部異なる機能があり、「列番情報(JR東日本)」「列車選別情報(JR西日本)」「速度制限を許容不足カント量21毎に加算するコード領域(JR西日本)」「架線電圧切替22、交直切替23(JR東日本のみ)」「新幹線・在来線切替(新幹線直通電車及び海峡線共用区間走行車)」「高速許可(かつての北越急行)」がある。

 P形は冒進の無い保安度の高いATSであるが、パターン演算を行うため精密機器であり、他のATSとの互換性は無く独立して扱わなければならず、専用の電源装置が必要となる。例として、JR東日本のEF65 501はP形搭載時に機器室に電源装置のスペースが確保できなかったため、運転室の助手席を撤去して搭載されたほか、103系では搭載時に前面上部にあった運行番号表示器を撤去・移設し、そこに電源装置を搭載している。

 車上装置は、P形単独の他にも、故障対策で2重化されたものやPs形機能を有するものが存在する。このうち統合型ATS装置としてP形とPs形の機能を合わせ持ったものでは、常用最大ブレーキパターンを作成せず非常ブレーキパターンのみ作成するようになっている。

 車体表記は[P]である。

 

ATS-PT形

 車上装置のコスト削減を目的として、JR東海が開発した形式である。

 従来のP形車上装置では常用最大ブレーキと非常ブレーキの2つの減速パターンを生成していたが、PT形では非常ブレーキの減速パターンのみを生成することで、演算装置のコスト削減を図っている。これは自動空気ブレーキ車や機関車用のP形と同一であり、「ATSはヒューマンエラーに対する安全確保」という原点に回帰するものといえる。

 地上装置としては、駅構内など進路条件が複数ある箇所には有電源地上子を、閉塞信号機や単純な進路となる箇所には最大5電文の無電源地上子を、曲線など速度制限が固定となる箇所には電文固定の無電源地上子を、それぞれ設置している。

車体表記は[PT]である。

 

ATS-PF形

 P形の電文は旅客列車(電車列車、客車列車)向けであり、貨物列車には対応していない。また貨物用機関車の中には込め不足を起こすものがあり、旅客列車とは減速特性が異なる。このため、貨物用機関車向け車上装置としてJR貨物が開発した形式である。

 貨物列車は列車毎に運転最高速度に定められており、運転台の「列車設定スイッチ」により最高頭打ち照査速度を設定する。最高頭打ち照査速度は2524・45・55・65・75・85・95・100・110km/hから選択する。パターン超過時には非常ブレーキが動作する。

 運転台には、バーグラフ表示により現在の列車の速度と発生しているパターンの照査速度を表示する運転台表示器、電源投入時やパターン発生・消去時、パターン接近時、復帰扱い時にチャイム又は女性の声でアナウンスを流す為の大型スピーカーが設置される他、機関車が重連運転の補機又は後押し補機での場合に最高頭打ち照査速度以外の機能を停止させることもできる。

 またP形を連続整備しているJR東日本・JR東海管内と、後述の拠点P方式を採用しているJR西日本管内では運転取扱や仕様に一部相違があることを考慮して「東モード」「西モード」を装備し、会社間切換地上子による自動切換機能も存在する。

 現在はPF形単独の車上装置に加えて、PF形・Ps形の統合型車上装置も開発され、P形整備区間とPs形整備区間を行き来する機関車に搭載されている。

 車体表記は[PF]である。

 

拠点P(西日本形)/拠点P(東日本形)

 P形の地上装置を絶対信号機や曲線、分岐器付近にのみ拠点設置する方式。地上側への設置方式を指し、車上装置の形態ではない。

 拠点設置方式では、P形地上子は場内・出発・入換信号機、ホームに近接する踏切、曲線、分岐器付近にのみ設置され、それ以外の地点にはSW形地上子が設置される。この方式を採用した区間では、Sx系・Ps形・Dx系も入線可能である。

 西日本形拠点Pの場合、P形・PT形・PF形を搭載する車両はSx系とP系を両方作動させて入線させる。これは、閉塞信号機などSW形地上子しか設置されていない箇所ではP系が動作しないためである。P形の動作状況は表示器で判別できる。JR東日本車・JR東海車はATS切替連動スイッチを「開放」に、JR貨物車は「西モード」に切り替えて走行する。

 これにより、高価なP形地上子の設置数を減らすことが出来、また過密線区においてはP形のパターン照査と現示アップ機能により列車の運転間隔を詰めることができる。

 東日本形拠点Pでは、駅構内及び第1閉塞信号機に対してトランスポンダ地上子が設置される。Sx系とP系の切替は地上子による自動切替で対応するため、連動スイッチを開放する必要は無い。

 

ATS-P(R)形

 小海線に無線式列車制御システムと共に導入されたATS-P。無線式ATS-Pとも呼ばれる。(以下、本節執筆中)

 


 

ATS-Ps形(変周地上子組み合わせパターン式)

 従来地方線区で使用されてきたATS-SN形との互換性を維持しつつ、新たに地上子の変周周波数を追加しその設置規則により速度照査パターンを生成し、P形に近い機能を持たせた形式である。

 車上装置の常時発振周波数を73kHzに低下、従来の103kHz、108.5kHz、123kHz、130kHzに加え80kHz、85kHz、90kHz、95kHzを追加した。これら地上子の設置規則及び減速パターンを車上装置に記憶させておく。受信した周波数と地上子の間隔より減速パターンを読み出し、パターンに抵触した場合は非常ブレーキにより列車を停止させる。

 Ps形の特徴として2段パターンが挙げられる。信号機が停止現示の場合、信号機の655m手前に設置された第1パターン発生地上子25により65km/h26までの減速パターンが生成される。次いで600m手前に設置されたロング地上子27によりロング警報が鳴動する。続いて390m手前に設置された2個1対の第2パターン発生地上子28により15km/hまでの減速パターンを生成する。パターンに沿った場合、列車は15km/hで信号機に接近し20m手前に設置された直下地上子29で非常停止する。

 パターン発生後に信号機が進行を指示する現示となった場合、第1・第2パターン発生地上子及び直下地上子は103kHzを発振する。車上装置は103kHzを受信すると減速パターンを消去する。

 閉塞区間が短く出発信号機に対応する地上子が場内信号機の外方に設置される場合、出発信号機に対応する各地上子の手前にマーカー地上子30を設置し区別する。場内信号機に対するパターンはPaパターン、出発信号機に対するパターンはPbパターンと呼ばれる。

 これとは別に、踏切鳴動開始用のバックアップ列車検知器と分岐器速度照査装置を作動させる為に100.5kHzを地上子から送信している。

(以下、執筆中)

作用 地上子周波数 (kHz) 備考
マーカー
地上子
制御地上子
有効時 無効時
第1パターン 95 80 73  
第2パターン 95 108.5 ×2 73  
停止信号現示
100mパターン
108.5 80 73 Pbパターンにのみ適応可能
         

 


 

ATS-Dx系(変周・デジタル地上子併用パターン式)

ATS-DN形

ATS-DK形

ATS-DF形

 


 

D-TAS(旧称 ATS-DW形、旧々称 ATS-M形/変周・デジタル地上子併用パターン式)

 


 

私鉄の自動列車停止装置

1号型ATS

C-ATS

OM-ATS

D-ATS-P

脚注

  1. 信号冒進時対策として。
  2. 「ジリリリリ」という目覚まし時計の様なベル音。
  3. およそ20m手前。
  4. ブレーキハンドルを「重なり(自動空気ブレーキ車)」・「常用(直通空気ブレーキ車)」よりも動かした状態でATS確認ボタンを押下することで確認扱いが完了する。
  5. 運転取扱基準規程第365条標準10の2では、電磁直通ブレーキ車はブレーキハンドル角度30度以上としている。
  6. 「キンコンキンコン」という呼び鈴のようなチャイム。
  7. 実際にはこれに加えてブザーが鳴動する。
  8. (一社)信号工業協会 会報第38号技術論文「我が国鉄道のATSの歴史と改善の継続について」- http://www.shingo.or.jp/mwbhpwp/wp-content/uploads/d244c4de42e419390aa4205740dd343e-2.pdf
  9. ATS-A形の車体表記は、こちらこちら(クモハ165-120)で見ることが出来る。
  10. 機関車は0.55秒以内。
  11. SN形は105±5kHzの帯域内にあり認識できない
  12. 1708kHz。
  13. (電磁)自動空気ブレーキ車は非常ブレーキ用のみ
  14. 「チン」という短音ベル
  15. 出発・閉塞信号機は2つ(手前180m・85m)、場内信号機は4つ(手前280m・180m・130m・85m)。
  16. 3000kHz
  17. 信号機の警戒信号を注意信号にアップすること。これにより必要以上に減速せず次閉塞に進入でき、列車密度を高めることが出来る。
  18. JR東日本方式を採用。
  19. JR東日本方式を採用。
  20. JR西日本方式を採用。
  21. 110mm=振り子式、70mm=高速、60mm=普通、50mm=機関車列車。JR貨物所属機は無効としている。
  22. 新幹線直通電車のみ搭載。
  23. 交直両用車のみ搭載。
  24. 入換用
  25. 80kHz
  26. 機関車は55km/h
  27. 130kHz
  28. 108.5kHz
  29. 123kHz
  30. 90kHzまたは95kHz

Posted by Michinoku-Lab