ENR-1000の本線走行における軌道短絡と保安装置【追記有】 – 「研究日誌」20171110

2018年12月30日

今日はENR-1000について

先日の弘前運輸区公開ではDE10やED75の他に、ENR-1000という除雪機械が置かれていました。


ENR-1000(去年撮影)

線路を走る車両には2種類あり、本線を走行するのに必要な装備(保安装置、列車無線、etc…)を持つ車両と、それらを持たない機械に大別できます。車両は軌道短絡が出来るため自身の位置を輸送指令側に知らせることが出来、通常通り信号機に従い運転出来ます。しかし機械は軌道短絡が出来ないようにされている(保線等で一方向のみに走らず後退することがあるため、軌道短絡をしていると信号関係に不具合が起きる)ため、信号機が動作しない。このため機械が本線を走行する場合は、走行する区間を線路閉鎖し、車両がその区間に進入してこないようにしなければならない。しかし線路閉鎖した場合、営業列車はその区間に入れないためダイヤに支障するなど欠点がある。

さてこのENR-1000、今までの除雪機械と異なるのは保安装置であるATS-Psを搭載している点である。


ENR-1000の運転台
左上にATS-Ps表示器がある。画像にはないが、運転室左上にはATS確認ボタンや警報持続ボタン等のATS関係機器類がある(参考画像)。

ATSがあるということはENR-1000は車両として本線を走行できるということである。しかしENR-1000はJR東日本の車両として車籍登録されていない。この点について、当日運転室で説明を行っていた保線の方に聞いてみた。すると面白いことがわかった。

ENR-1000にはロータリー形態とラッセル形態の2種類があり、積雪の状況等によってその形態を切り替えて除雪を行っている。ロータリー形態の場合は従来の機械同様軌道短絡ができないため、線路閉鎖を行い除雪作業を行う。これに対し、ラッセル形態では軌道短絡が可能であるため、信号機に従い、つまり通常の列車と同様に本線を走行し除雪することができる、というのだ。さらにラッセル形態で除雪を行う場合は、予め列車と同じダイヤグラムが設定され、それに合わせて除雪を実施するとのことだ。ATS-Psを搭載するのは、曲線や分岐器などで速度超過を起こさないようにするためであろう。

保線機械でありながら車両と同じ保安装置を持つENR-1000でした。


【追記:2017/11/11】
ふとんやさん(@dc282466)より次のような質問を頂きました。

確かにENR-1000は、山形新幹線・秋田新幹線の除雪用に改造されたDD18形やDD19形(いずれもDD51形改造)の置き換え用として標準軌仕様で両線に投入されましたが、ATS-Pの搭載有無については考えたことがありませんでした。

そこで調べて見ますと、このサイトの一番下にある運転台の画像で、ATS-P表示器があることが確認できました。

また、ATACSはそのシステムに、保守作業時における保線機械の進路構成や、線路閉鎖機能を内包しているため、ENR-1000のような保線機械にも営業用車同様にATACS車上装置が搭載され、ATACSによる制御を受けると思われます。ATACSは軌道回路により在線の有無を検知していないため、川崎駅脱線事故のような事態は防げると思います(特殊自動閉塞式等の停車場間に連続した軌道回路が存在しない閉塞方式の場合、本線に保線機械を遺留してしまっても検知できないため、これも同様である)。