川越線デッドロック事件について(5月7日追記)

2023年5月7日

所詮はセルフ事故調査委員会しぐさではございますが、先日発生した「川越線デッドロック事件」について考察してみたいと思います。


あらまし

事件は2023年3月2日、川越線の指扇駅-南古谷駅間で発生した。当日は強風の影響で川越線及び直通する埼京線では遅れや運休が発生していた。

当該の下り2081S(新木場発通勤快速川越行き。所定指扇21:43発、南古谷21:50発。E233系7000番台ハエ134編成)及び上り2188K(川越発各駅停車新木場行き。所定南古谷21:50発、指扇21:55発。東京臨海高速鉄道70-000形Z3編成)は所定では南古谷駅で交換するダイヤとなっている。両列車は(おそらく)ほぼ遅延なく、それぞれ指扇駅、南古谷駅に到着したとみられる。

その後、指扇駅下り出発信号機及び南古谷駅上り第一出発信号機が進行現示となった。そのため2081S及び2188Kはそれぞれ南古谷駅、指扇駅へと出発した。

その後、2081Sは南古谷駅下り第一場内信号機が、2188Kは南古谷駅上り第三出発信号機が、それぞれ停止現示になっていたため停車した。そして両列車は互いに自身の進行方向に前照灯を認めた。ここでようやく単線区間で両列車が向き合っていることが発覚した1

 

川越線指扇駅-南古谷駅間の線形について

川越線は大宮駅-川越駅間のうち大宮駅-日進駅間のみが複線で、日進駅-川越駅間は単線となっている。この間の駅では全て列車交換が可能である。

閉塞方式には単線自動閉塞式が、保安装置にはATS-Pが採用されている。

今回問題となった指扇駅-南古谷駅間には川越車両センターがある。川越車両センターは、指扇方から下ってきた場合は南古谷駅下り第一場内から分岐し着発線へとつながっており、南古谷方では入出区線を介して南古谷駅と接続している。このため川越車両センターから出区し指扇始発、南古谷始発となる列車が早朝から朝ラッシュ時にかけて設定されている(入区列車は大宮駅や川越駅から回送として運転される)。

配線略図は次のとおりである。

川越車両センター内の配線及び川越車両センター-南古谷駅間の入出区線については割愛している。

上図を見ていただくとわかるが、川越車両センターは信号システム上は南古谷駅の中にあることになっている。また、南古谷駅上り第一出発から上り第三出発までは単線区間であるが、出発信号機であることから同じく南古谷駅構内扱いであることがお分かりいただけるかと思う。

なお、下り第一閉塞信号機には、通例だと進路予告機(南古谷駅下り第一場内信号機と着発線場内信号機のどちらが開通しているかを予告する表示器)が設置されているのだが、ここではされていない。

 

デッドロック完成までの流れ

JR東日本や国土交通省から公式な経緯は公開されていないが、労組資料2等から大凡次のような流れだったと思われる。

  1. 輸送指令、2081Sと2188Kの交換駅を南古谷駅から変更(恐らく指扇駅)
  2. ATOSに交換駅変更の情報を入力
  3. ATOS、指扇駅-南古谷駅間の閉塞方向を下りに設定。
  4. ATOS、指扇駅下り出発信号機を進行現示にする。
  5. 2081S、指扇駅発車。
  6. 2.とほぼ同時、南古谷駅上り第一から第三出発信号機を進行現示に設定。但し、閉塞方向は下りのため、第二出発は注意現示、第三出発は停止現示のままとなる。
  7. 2188K、南古谷駅発車。
  8. ATOS、南古谷駅下り本線第一場内信号機を進行現示にしようとする。しかし2188Kが既に上り第二出発信号機の防護区間内にしたため進行現示にならない。
  9. 2188K、南古谷駅上り第三出発信号機が停止現示であることを認め停止。
  10. 2081S、南古谷駅下り本線第一場内信号機が停止現示であることを認め停止。

 

なぜデッドロックになったか

私は事件発生当初、「上り第一出発信号機から第三出発信号機までは単線でありながらも信号システム上は停車場内であるため、指扇駅-南古谷駅間の閉塞方向の如何に関わらず第三出発信号機まで列車を発車させることができる」と考えていた。閉塞信号機は閉塞方向の設定により一方向のみに進行できるように設定できるが、出発信号機や場内信号機はその制約に縛られないと考えたためである。またこの場合、南古谷方から上り列車を出発させつつ指扇方から川越車両センターへ回送列車を入区させることもできるためメリットがある。

一方、Twitterでは「2081Sを回送列車と勘違いして川越車両センター着発線へ進路を引いたが、運転士が異線現示に気付き停車したためデッドロックとなった」という説が有力視されていた。「下り列車を川越車両センターに入れる進路であれば衝突はしない」ということを考えれば、こちらの方が自然とも言える。

これらのセルフ事故調に対して、報道には以下のような情報が書かれていました。

2つの列車は、それぞれきのう午後9時51分と、52分に駅を発車していて、その際、いずれも駅の信号が「青」だったことを確認していたということことです。
指扇駅と南古谷駅の間は、大半が単線になっていて、上りと下りの駅の信号が同時に「青」になることはないということで、JR東日本は信号システムに不具合が起きていた可能性があるとみて原因を調べています。

JR川越線 単線上で上下列車が接近 信号システムに不具合か(NHK 埼玉NEWS WEB)

本来は駅で上下線がすれ違うが、どちらかの電車の発車前に停止を指示する信号が作動しなかった可能性があるという。

川越線、単線に上下の電車が進入 6百メートルまで接近(中日新聞)

NHKの記事には「上りと下りの駅の信号が同時に「青」になることはない」とあることから、私の説もTwitterでの説も否定されることになりました。

中日新聞の記事には「電車の発車前に停止を指示する信号が作動しなかった」とありますが、これはちょっとわかりません。ATOSの出発時機表示器や指扇駅下り出発信号機が考えられますが、詳細は不明です。

そして3月8日にJR東日本輸送サービス労働組合の申し入れ資料が公開され、ATOSへ交換駅変更の情報を入力した際に両駅の出発信号機が進行現示となったことが判明しました。

 

今後について

組合側は「原因が解明されるまで単線区間での交換駅変更を原則行わないこと」を求めていますが、そうなると列車遅延を思うように解消できなくなるため会社側としては避けたいのではないでしょうか。一方で「システムによる運行管理を過信してはならない」というのはその通りで、結局は人間が責任を負うことになるのですから、同じようなことが起きないようにしてもらいたいです。

加えて、JR東日本という会社自体の問題点。先月、東北本線黒田原駅でのオーバーラン+旅客放置事件がありましたが、1ヶ月経ってなお回答を出していないようです(少なくとも問い合わせから10日では返事はなかったようです)。

JR西日本は、2022年8月に発生したおおさか東線異線侵入事件をはじめ、何か問題が起きれば翌日から数日以内にプレスリリースを出しています。これに対してJR東日本は、今回の件、黒田原駅の件、東京駅で車椅子スロープを取り外さないまま新幹線が発車した事件といい、なにか問題が起きたとしても報道への回答のみでプレス等を出していません。

JR西日本がたびたび問題を起こしているのはそれはそれで問題ではありますが、問題があったことと対応策を速やかに公表していることは評価して良いと思います。JR東日本もこういった問題が発生した場合には、公式プレスを出したほうが良いのではないかと思います。

 


(5月7日追記)4月16日公開の労働組合資料より

4月16日に公開されたJR東日本輸送サービス労働組合の資料3より、当時の状況が明らかになりました。

  1. 2081Sが指扇駅に、2188Kが南古谷駅にそれぞれ到着。
  2. 両列車は所定では南古谷駅で交換するため、指扇駅の下り出発信号機が進行現示になる。
  3. 交換駅を指扇駅4に変更するため、運転指令はATOS中央装置に交換駅変更の入力を行い、情報を駅装置に送信する。
  4. 指扇駅の下り出発信号機は既に進行現示になっているため、本来はここでシステムチェックが働き情報送信が拒否される。しかし不具合により変更後のダイヤが駅装置に送信されてしまう。
  5. 指扇駅では既に進行現示になっているため変更後ダイヤが反映されない。一方、南古谷駅では進路制御が行われていなかったため、変更後ダイヤが反映され南古谷駅の出発信号機が制御された。
  6. デッドロック完成。

脚注

  1. 川越線の単線区間で上りと下りの電車が在線! – JR東労組大宮地本
  2. 申第30号川越線指扇・南古谷間デッドロック発生に対する緊急申し入れ – JR東日本輸送サービス労働組合
  3. JTSU本部サイトがダウンしているため、追記時点ではURLを記載できません。
  4. 資料では「南古谷駅に変更する運転整理」となっているが、指扇駅の誤りと思われる。